ライオン

具体的恋愛において、男性は一所懸命であり、欲も得もないが、女性は、それほどでもないというのが多いそうである。
「宇治拾遺」という古い書物がある。作者は不明だが、とにかく千年前の我々の祖先の残した貴重なる人生記録である。
そのなかに、次のような物語がある。ある大納言が恋愛した。相手は名だたる好色な女性であった。ある夜、それは月の明るい夜、だった。具体的恋愛のクライマックスにおいて、その女性が「いと高く鳴らしてけり」とある。この原文を解釈すると、つまり、なんだ、大きな屈を出したというのである。そこで大納言はつくづく情なくなった、こっちが、こんなに一所懸命夢中になってるのに、先様は平気の平左、なんでもないことのように旺門で深呼吸、大音響とともに多量の炭酸ガスを発散した。ここで断っておくが、大きな音のするのは大部分が腸内の発酵による炭酸ガスばかりで、それほど臭くない。音のしないような、あるいは小さくても底力のあるのは腹の中における蛋白質の腐敗によって起るから、スカトールなどの有機ガスで極度に鼻粘膜を刺激する、つまり鼻もちのならないほど臭いのである。どうも注釈が長くなり、話の腰を折って失礼。これだから科学的精神を持ちたくない。
さて、くだんの大納言、すっかり味気なくなり大いに悲観した。いとも厳粛なる営みのつもりで精根の限りを尽くしているのにそのリベートが炭酸ガスである。世をはかなんだ大納言は「出家せばや」と、月の夜路を、とほとほと考えながら歩いて行った。自分が出家しようとする動機はなんであるか。それは毘である。屈を出したのは誰か。自分ではない。女である。そうだ、責任は、これすべて彼女にある。彼女の出した毘の責任を自分が負うべきではなかろう。ああ、そうだと、さとって、出家するのは止めた。
問題はガスとは限らないが、こうした大納言的心境は我々男性の一生の長い間には一度や二度はあるというもの。
動物にも同じようなことがある。アフリカでライオンの生態を研究した学者の報告によると、おす同士がめすを争う戦は百獣の王者だけあって物凄いものだが、めすは知らん顔して平然たるものがあるという。西部劇で善玉と悪玉の男同士が生きるか死ぬかの大格闘をしているのに、女性は惚れたほうに加勢もせず、ただ黙って見ている。ちょうどライオンの場合もそれであるという。ライオンなら善玉も悪玉もない。勝ったほうが善である。勝ったライオンが意気ょうようと、いざこれからという時にはるか向こうに縞馬の姿が見えた。これはライオンの大好物。めすは恋愛くそくらえとばかり、縞馬めがけて走り去ったという。
動物園のライオンにとっては、おすめす一対一の配給当てがいぶちであるから、おすどうしの戦いは見られない。ライオンのおすは七面倒くさい手続きなしで直接行動に出られる。しかし交尾期になると数日間、百獣の王者は政務は、そっちのけ、文字どおり寝食を忘れて性務のほうに専念。皇后様のほうは、そればかり専念することなく、食事を忘れない。充分食べておかないと、あとで出来るであろうところの腹の子供の栄養に困るという大義名分からでもあろうが、食欲は少しも衰えをみせない。人間の女性なら食欲を含めた物欲が、いかなる時代にも盛んなのと同じ理屈である。ライオンのめすは馬肉や兎を食べようとする。そんなことをされては発情が止まる。おすは馬肉のそばに頑張ってめすの食べるのを邪魔する。皇后は仕方なくなく、不承不承に迷惑そうな顔をして王様の御意に従うと相見えた。
ライオンは威風堂々としていても、動物学からすると、ニヤン公の一族「猫科」に属する。学者はフェリクス・レオという。フエリクスというのはラテン語で猫のこと。
猫の交尾も近頃は白昼、地面で普通に見られるようになったから観察に便利である。
僕の愚弟に杉靖三郎という生理学者がいる。医学博士で大学教授だが、彼の猫談義を聞くに及んで、ははあ猫とライオンとは同族であるわいの感を深くした。
愚弟自身だったか、その弟子だったかの研究によると、交尾中の猫、あの身も世もあらぬかとばかりの深刻なる恋愛の真最中、そこに鼠をほうり出した。すると、めすのほ、つは、しつこいおすを振り離して鼠を追っかけたという。
人間にあっても、お宮は三百円のダイヤに目がくらんで、貫一を捨ててしまったではありませんか。

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