俗に麻羅骨といって、いかにも筋金いりのバックボーンみたいなつもりでいるが、あれに骨のないことは、その持主が承知している。
いかにも骨がありそうに見えるところから、麻羅骨などというのだ。その実は見虫の身体と同様、外側の皮だけで辛うじて形を保ってるのにすぎない。
その点、犬は大したもの、ちゃんとした麻羅骨がある。犬は陰茎骨と名づける、れっきとした骨がある。うらやましい限りだ。「犬畜生にも劣る」とは我々のうらぶれたところを見ての感想であろう。
犬の陰茎骨といっても、根もとから先まで通ってるわけではない、そんなに通ってたら相手がたまらない。幸いにも途中までである。
昔、アイヌの間では泥棒した者を捉えると、根棒みたいな骨で尻を百叩きにしたという。北大医学部の児玉作左衛門教授の研究室を訪れて、くだんの叩き骨を見せられた、抹香鯨の陰茎骨だろうということだ。してみると歯鯨には陰茎骨があること犬と同じであるらしい。鯨学者には、まだ訊いてないから確かではない。
犬のほうの陰茎骨は学界周知のこと。この骨の周りに筋肉があり、そこには血管があって、一旦緩急あれば充血すること吾人と異るところがない。犬のそれは、ふくれて、ペニスが玉のようになる。付根は、そのままであるが先が丸くなる。その形は、なんといいましょうか、学校のベルの中にぶら下がっている金の玉みたい。ペニス自体が金玉である。
仙台の方言では、キンタマといえば、ホーデンのことではなく、ペニスのほ、つである。丈のペニスは始めは尖っているから挿入に便利である。そして、それから後に、膨張して玉のようになるから、なかなか取りはずしが利かない。
金米糖のはいった壷みたい、狭い口に、手がやっとこさはいる。欲ばりが、中の金米糖を、しこたま握るから、査から手が抜けない。
ひっぱっても、回しても手が抜けない。どうしても抜けない。さて困った。しかし、人間の手に代えられないと、惜しいけど、壷を叩き割った、それでもちゃんと、金米糖を握ってたという昔話がある。犬のそれは、正に、そのとおり。
首振りこけしの仕掛けと同じことに相成る。ボールベアリングみたいに中で回転自在、ぐるぐる、くにゃくにや回っても外れることがない。犬の二輔連結は押せども引けども分離することがない。
人間にも、これに似た状態が時あってか、ないわけではない、いわゆる「不抜」というのがそれである。同じ不抜でも堅忍不抜というのであれば、賞めたことであるが、医者のいう「不抜」は困る、大困りである。
しかし、これは犬の場合と違って、女性のほうに原因の百パーセントがある。あまりの驚きという精神的のショックによって睦のけいれんによる。新郎新婦仲よくマントの相合傘で病院に運ばれて注射で治まったという記事が地方の新聞に出ていたのを読んだことがある。
犬の場合は男性側に全責任がある。二匹の犬が道も狭しとばかり往来に立ちふさがっている。これを見た御用聞きの小僧、大いに痛にさわったらしく自転車で十メートルほど離れたところからスタートを切って全速力、結合部めがけて突進した。キヤンキヤンと悲鳴をあげて犬は離れた、ズボンのおならみたいに右と左に泣き別れ。自転車は勢い余って跳ねあがった。小僧さんは、もんどり打って、くるつくるっと二回転の宙返り、額に大きなこぶを作った。ひとの恋路を邪魔するやつは犬に食われて死ねばよいというが、犬はだらしなく別れ別れに逃げ去った。
とにかく、犬の結合は、それほどのものである。これ、ひとえに陰茎骨のお陰である。
金米糖